追憶のエンターテイメント

フィクションとは何か?
ノンフィクションとは一体何か?
それが私達への問いかけだった。

2日間の夢のような時間が、今年も終わった。あれから1週間経ったとは信じがたいぐらい、私はまだあの光景を引きずっている。今年も奇跡が起きて1日目はライビュ、2日目は現地参戦できたことに感謝しかない。だが、だからこそというべきか、ものすごくナナライロスだ。あまりにもロスなので、この1週間ぼんやりと考えていたことをまとめてみたい。
馬鹿みたいに長いですが、お時間のある方はどうぞお付き合いください。


〜ŹOOĻについて〜

まず正直な話をしよう。
私はŹOOĻというグループが嫌いだ。
それは彼ら個人個人がどうこうという意味ではない。むしろŹOOĻの曲は好きだ。けれどあのストーリーの中で、IDOLiSH7を、TRIGGERを、Re:valeを、そしてそれぞれのグループのファンを少なからず傷つけ、貶めようとしたヒール役としてのŹOOĻが憎かった。その時の感情は今でも変わらない。彼らの過去がどうであれ、彼らは取り返しのつかない罪を犯した。決して許されることではない。
だからこそ、ライブへの参戦が決まった時、少し複雑な気持ちになった。中の人事情を知っているのもあって、きっとパフォーマンスは素晴らしいのだと確信する反面、REUNION=再会というライブコンセプトに沿うような形で彼らを登場させないと、とても納得できないと思ってしまったのだ。アイドリッシュセブン運営はファンを裏切らない、そういう期待も相まってのモヤモヤした気持ちだった。

いざ始まった2nd  Live、REUNION
私のモヤモヤは見事に吹き飛ばされた。

オーバーチュア映像の直後、キービジュアル通りの16人のアイドルがそこにはいた。
真ん中に立つ陸が高らかに叫ぶ。
大きな歓声の中、さりげなくステージを降りるŹOOĻの4人。そして流れ始めたのは、去年のアンコールを彩った『NATSU☆しようぜ!』。しかも今度は、Re:valeも含めた12人で。ここに帰ってきたよ!そんな声が聞こえた気がした。

それから、12人で挨拶をして、IDOLiSH7、Re:valeが序盤のパフォーマンスを終えた後、ついにその時はやってきた。
腹に響くようなイントロが流れる中、ムービングステージに現れた4人。何の前触れもなく圧巻のパフォーマンスが始まる。それはさながらストーリー本編中、映像ジャックでデビュー曲を世に知らしめ、突如人々の前に飛び出てきたŹOOĻそのものだった。

ゲームをプレイしている私達の立場は、IDOLiSH7のマネージャーだ。それゆえに、ŹOOĻへ傾倒するファンの気持ちは捉えにくいと思う。少なくとも私は、曲は好きだけど、でも……と言いよどんでしまう。だけどライブで実際に彼らのパフォーマンスを見てしまったら、認めざるをえない。曲にあわせて体が動く。口ずさむ。夢中になる。気付けば声に出していた。「カッコいい!!ŹOOĻカッコいい!!」それはまさしく、アイドリッシュセブン世界線のアイドルファンの気持ちだった。

とても粋だと思ったのは、歌割りが4人用に変更されていたことだ。4人で歌うこと。それがどんな意味を持つのか、現在配信されているところまで本編を読んでいる私達は知っている。彼らの鮮烈なデビューを目の当たりにしながら、それぞれが罪を自覚し、ŹOOĻというグループを本当に歩き始めた彼らをも見ているようで、私は胸が熱くなった。最早モヤモヤなんてどこにもない。私の心配なんて、杞憂もいいところだ。

スペシャル映像を挟んだ後の『ZONE OF OVERLAP』は、まさに圧巻だった。ストーリーの中でも危惧されていたブーイングなんてあるはずもない。レッフェスさながらの盛り上がりに、自然と口角が上がる。あんな熱いパフォーマンスを見せられて、興奮しない人などいるだろうか。今ならあの記者の気持ちが分かる。いくら反抗的なグループだった彼らを否定しても、あのステージが目の前にあったらきっと口を噤んでしまう。感嘆の声が漏れる。すごい、すごい!そうやって手を叩いてしまうしかない。

私はこれからも、彼らの罪を許すことはできないと思う。だけど、これだけは言える。
あの2日間、確かにŹOOĻは本物だった。


〜TRIGGERについて〜

ŹOOĻがステージから降りた後、見える一人のアイドルの姿。スポットライトが当たり、私達は息を呑む。たった一人でたたずむのは、十龍之介。
『願いよ届け たとえ遠くても』
アカペラで歌い始めた瞬間、悟ってしまった。東京国際音楽芸術祭、あの"たった一人のTRIGGER"を、私達は見せられるのだと。

アイドリッシュセブンのすごいところは、とにかく矛盾がないところだと思う。「えっ、何でこのキャラこんなこと言う人だっけ?」と困惑することが無いのだ(突拍子も無いことをして驚かせてくる人は何人かいるけど)。キャラの根本的な芯の部分はブレさせず、成長したな、変わったなと思わせる言動もきちんと根拠がある。あえて言うなら、根拠があれば容赦なく言葉に棘を纏わせる。ストーリー展開や登場人物の心情変化に沿っていれば、アイドル達にとって、私達にとってセリフがナイフになることも厭わない。だからこそ私達はしんどいしんどいと言いながら、ストーリーを追い続ける。アイドル達に想いを馳せる。そしてそれはきっと、アイドル達を演じるキャストの方々も同じだ。

今回のTRIGGERの一発目の演出、天と楽がいない、たった一人のステージに立つ龍がそこにはいた。オフマイクで正確には分からないが、少なくとも唇は二人の名を呼ぶ形に動いていたと、私は思っている。「天……楽……」その後に続くのは、ごめんという謝罪か、行くよという決意か。どちらにせよ、何も矛盾のない「十龍之介」を、私達はまざまざと見せつけられた。そして、イントロと共に現れる天、楽の2人。TRIGGERが揃った!ストーリーとしては間に合わなかった2人が、龍と一緒にステージに立ち、『願いはShine on the sea』を歌っている。3人で歌えてよかった。あの時のファンは皆、そんな感激を持ってペンライトを振っていたに違いない。

そして、忘れてはならないのが新曲『Crescent Rise』。ストーリーを最新更新分まで読んだ私達だからこそ、この曲がいかに大切かが分かる。これは彼らが自ら勝ち取った曲だ。オーディションを勝ち抜き、役を掴み取り、歌うことを許された曲なのだ。かつてTRIGGERのために用意された曲である『Last Dimension』を記者達の前でアカペラ披露した彼らが、私達の前で今度は自分達が掴み取った曲を歌う。この重みを共有できるなんて、何て素晴らしく、グッとくる時間なんだろう。

「やっぱりTRIGGERが最強だろ?」
TRIGGERのパフォーマンスの間、私達の答えは「Yes」一択でしかない。


〜永遠性理論について〜

今回のライブにおいて、曲の披露的な意味で最も大変だったのがRe:valeなのではないだろうか。何せ持ち歌が去年から一気に増えて、選択肢が広がった。特に大事な位置付けとなるのが、『永遠性理論』だと思う。

ストーリー上でもこの曲は新曲として披露される。しかも「百が初めて作詞した曲」だ。私達はストーリーを読んだ身としても、Re:valeのファンとしても、興奮せざるを得ない。何よりも私がグッときたのが、この曲紹介をしたのが千役の立花さんだったことだ。百の言葉を乗せて千のメロディが響くこの歌を、千が高らかに「僕たちの新曲を聞いてください!」と告げる。Re:vale最高!そう言って鮮やかなピンクと黄緑色のペンライトで会場を染めたくなるような高揚感。ストーリー中でRe:valeのコンサートに参戦したファンさながら、私達は彼らの名前を呼ぶ。

4部第1章2話で、Re:valeのマネージャー、おかりんがコンサート前にこんな言葉を言っていた。
「戦わなくても生きられるこの時代に、あえて戦おうとしている人達の、勇気と決意を支えて、より輝かせてくれます」
ライブ中のRe:vale役のお二人はまさに『あえて戦おうとしている人達』だった。そのおかげで、私達ファンは完璧なアイドル達に声援を送ることが出来たのかもしれない。


〜六弥ナギについて〜

最新更新分を読んだ私達にとって、おそらく最大の心配事だったに違いない。
ナギは?
出演者一覧に名前はあるけど、本当に出るの?
当日になったらやっぱりいないのでは?
実際、ナギを演じる江口さんがナナライのリハについてSNSで触れることなかったし、リハの様子をちょくちょくアップしていた代永さんや阿部さん、小野賢章さんの写真にも、江口さんは写っていなかった(見落としてたらごめんなさい)。今思えば、あえてそうしていたのかもしれない。代永さんが「今日もいない!」と黄色いクエン酸ドリンクを掲げながら白井さんとのツーショットをアップしていた時、実際はその場にいた可能性はある。そんな邪推をしてしまうほど、江口さんは徹底してリハ中の写真に登場しなかった。

だからこそ、IDOLiSH7が全員揃ってステージに現れた時は歓喜した。「ハァ〜〜イ!」の挨拶に安堵した。マイクを持って歌う姿に、三月や大和と肩を組む姿に涙した。会場が「ナギ〜〜!!!」と彼の名を呼ぶ。その声はひときわ大きい気もした。誰よりもメンバーを愛するナギは、みんなから愛される。それを改めて実感した。

2日間、ナギは歌い、踊り、喋り、私達を笑わせる。だけどストーリーの中の彼は、まだノースメイアの陰謀の渦中だ。
最後の挨拶で代永さんが言う。
「ナギと、みんなと一緒に歌えてよかった」
江口さんも言う。
「皆さん、彼に向けて聞いてください。『Are you happy?』きっと彼にも届いていると思います」
こんなにもキャラクターを生きて、こんなにもキャラクターを愛してくれる人達の言葉に、涙腺が緩まない人が果たしているだろうか。
正直なところを言えば、ライブの前にナギが戻ってきて欲しかった。おかえり!って笑顔で叫びたかった。だけどそれはまだ叶わない。代わりに私達はあのメットライフドームで、大きな声で問いかけた。
「Are you happy?」
近いうちに、あの変わらぬ元気なトーンで「Yes!!」という答えが返ってくることを、私達はずっと信じている。


〜まとめ〜

フィクションとは?
ノンフィクションとは?
私達は『アイドリッシュセブン』という虚構のアイドルを見守るゲームコンテンツを共有している。けれど私達はあの日、この目で真実を見た。
IDOLiSH7を。
TRIGGERを。
Re:valeを。
ŹOOĻを。
全力でアイドルを生きる16人を目の当たりにした。
彼らのストーリーを追うマネージャーの一人として。
彼らの活躍を応援するファンの一人として。
アイドリッシュセブンのライブにおいて、私達は二つの立場でストーリーを追憶できる。そしてそれらは全て、アイドリッシュセブンを愛する者へのエンターテイメントとして捧げられているのだ。

そのコンテンツ自体はゲームというフィクションかもしれない。しかし、私達がこの目に焼き付けられ、惹きつけられ、胸を打たれたあの2日間の光景全ては、確かにノンフィクションだった。